せめて




せめて



背筋を伸ばして 足元も軽やかに
私は歩く
改札を一人で抜けていく

一度だけ振り返る
いつも一度だけ
ホームへ上がる階段の手前で
小さく手を振るために ひとつの影を確かめるために


もう少し近くにいたら 例えば同じ路線
二人で抜ける
改札はいつも二人で

つまらない想いを
時々想うけれど
ホームを上がる階段の途中で
時間を気にしているうちに ささやかなおもいは消えていく


背筋を伸ばして 足元も軽やかに
私は歩く
あなたの右にときには左に

エスカレーターは
上りと下り 前になったり後ろになったり
決まり事でない決まりのように重ねる日々

時々繋ぐ手の タイミング
ふたつの距離
あなたの左手余った右手

ゆるくつないだ手が
思い出したように強くなる
駅へと向かう短い時間に
言わなくちゃいけないこと 言ってはいけないこと


せめて
いつも
背筋を伸ばして
あなたにはかっこよく
わたしを映そう

ちょっとかなしいことも
すごくうれしかったことも
背中に背負って
そしていつも背筋を伸ばして

あなたのかなしい、が
増えないように


せめて背筋を伸ばして
私は前を向こう
あなたが迷ったときに
前を向けるように



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